やさしいタイヤ材料のはなし その⑬

2014年08月23日

ゴムタイムス社

ゴム用原材料②

 ゴムに次いで配合量の多い補強材に話を移します。

 ミシュラン兄弟が、史上初めて、空気入りタイヤを装着して自動車レースに出場したものの、パンク修理に手間取り、スペアタイヤを使い果たしてリタイヤしたのが1895年、それからわずか数年後、1900年代に入るとほとんどのクルマが空気入りタイヤを装着していたようです。

 耐久性、耐摩耗性の問題点は未解決ながら、スピード、乗り心地及び操縦性の点で空気入りタイヤの魅力がいかに大きかったかが想像できます。

 そして、必要は発明の母、空気入りタイヤが主流になってから、わずか10年ほどでカーボンブラック(以下CB)が出現し、耐久性、耐摩耗性は飛躍的に改善されました。

 CBは、このときに発明されたものではなく、実は紀元前から文字を書くためのインクに使用されていました。

 3世紀には、CBを膠(にかわ)で固めた墨が発明されました。

 当時のゴム技術者は印刷インク用の材料であったCBに、ゴムの補強という新しい機能を発見し、タイヤを通してクルマを変革しました。

 タイヤ用CBの工業的製造法については、19世紀に天然ガスを燃焼させ、冷板に接触させてCBを製造するチャンネルブラック法が開発されました。現在では、高温ガス中に原料オイルを吹き込み、不完全燃焼させてCBを得るオイルファーネス法が主に使われています。

 さて、ゴム用CBはブドウの房から軸の部分を取り去り、ブドウの粒だけを直接くっ付けたような形状をしており、ブドウの粒の部分を粒子、粒子が集まった房全体をストラクチャーと呼びます。

 CBは粒子径で分類され、粒子径の小さい方から順にSAF(超耐摩耗性CB)、ISAF(準超耐摩耗性CB)、HAF(高耐摩耗性CB)、FEF(良押出性CB)と続き、粒子径が小さいほど高い耐摩耗性を示します。

 一方でCBの粒子径を小さくすると発熱性が高くなり、耐摩耗性と低発熱性は二律背反の関係にあります。また、粒子径が小さいCBは、ゴムと混練する際の加工性が悪く、ゴム中へ均一に分散させるのに苦労します。

 また、例えばSAFをN110、HAFをN330と呼ぶことがありますが、これはASTM規格のコード番号で、番号が大きいほど粒子径が大きくなります。

 次にストラクチャーですが、ブドウの粒の数が多く、房が大きいCBを高ストラクチャーと呼びます。

 カーボンブラック配合ゴムの張り応力及び耐摩耗性を高くするためには、CBを高ストラクチャー化する方法と、小粒子径化する方法があります。高ストラクチャー化した場合は、粒子径を小さくした場合ほどには発熱性が高くならないので、高ストラクチャーCBを配合することで補強性同等、低発熱性の配合ゴムが得られます。

 また、CBは炭素だけでできているのではなく、表面にはいくつかの種類の官能基が存在し、CB配合ゴムの補強性及び発熱性に影響するといわれています。

 しかし、まだ分からない点も多く、解明が進めばCBの表面官能基を制御することによって耐摩耗性と低発熱性の両立など二律背反の課題を解決できる可能性があると考えています。

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