年頭所感2016 住友ゴム工業 池田育嗣社長

2016年01月07日

ゴムタイムス社

 本年を振り返りますと、世界経済は、米国では緩やかな景気拡大が継続しており、欧州においても景気の回復傾向が見られるようになりました。一方、中国においては経済成長が一段と鈍化してきており、ロシアやブラジルなど、多くの新興諸国においては景気の悪化が顕在化するなど、世界経済全体としては、総じて低調に推移しました。わが国経済につきましても、円安の定着による企業収益の改善は継続しているものの、中国、アジア地域での需要の減退により総じて低調に推移しました。当社グループを取り巻く情勢につきましては、天然ゴム相場が引き続き低位で安定的に推移したことに加えて、為替の円安による輸出環境の改善がありましたが、海外市販市場における競合他社との競争が激化していることに加えて、多くの国・地域で市況が低迷するなど、引き続き厳しい状況で推移しました。このような状況下、当社では「VISION2020」の実現に向けてグループを挙げて事業の成長と収益力の向上を目指して様々な対策に取り組みました。それでは各事業について、この1年を振り返ってみたいと思います。

 まず、タイヤ事業についてですが、すでにご承知の通り、当社はGoodyear社とのアライアンス契約および合弁事業の解消について本年10月1日にすべての手続きを完了しました。これにより、当社のグローパル戦略は大きく進展いたします。欧州、北米ではこれまで事業展開に様々な制約がありましたが、今後は生産・研究・開発等の拠点を独自に保有することも可能となるため、従来よりも自由度が増した新体制により今後大きな飛躍を図れると考えております。また商品面におきましても今後はファルケンブランドを効果的に活用することで、多様化するお客様のニーズにきめ細かく対応し、グローバル展開を一層加速させてまいります。プロモーション展開につきましては今年からファルケンの持つ躍動感や、若々しくエネルギッシュなイメージを訴求するため、日本では「レッドブルエアレース・千葉」及びパイロットの室屋義秀氏とのスポンサー契約や、欧州ではドイツのプロサッカーリーグ・ブンデスリーガ1部の「FCインゴルシュタット04」、アメリカではメジャーリーグベースボールとのスポンサー契約などを行い、ファルケンブランドのグローバルプロモーション活動を本格的にスタートさせました。日本におけるファルケンブランドの新商品としては欧州で昨年発売しました次世代新工法「NEO―T01」で製造したプレミアムランプラットタイヤ「AZENIS FK453 RUNFLAT」を8月から日本でも販売開始しました。また、SUV用フラッグシップタイヤ「AZENIS FK453CC」、欧州最大の自動車連盟であるADACや「オートビルド」誌で高い評価を得ている、グローバルスタンダードタイヤ「SINCERA SN832i」、オールシーズンタイヤ「ユーロウィンターHS449」などを発売し、ラインアップの強化を図りました。ダンロップブランドでは、2月にミニパン専用の長持ちする低燃費タイヤ「エナセーブRV504」を発売し、好評を得ました。また、世界初の100%石油外天然資源タイヤ「エナセーブ100」が「地球環境大賞」「省エネ大賞」「ものづくり日本大賞」など数々の賞を受賞するなど、1年を通じて当社の強みである低燃費タイヤを中心とした、環境技術に高い評価をいただきました。そして7月にはハイパフォーマンスカーにふさわしい高い操縦安定性能と優れたウエット性能を兼ね備えたフラッグシップタイヤ「SpSPORT MAXX050+」を発売させていただきました。

 さて当社ではかねてから持続可能な社会の実現への貢献を目指して、地球温暖化問題や化石燃料枯渇問題などの環境問題に対応すべく様々な取組みを推進しております。

 まず1つ目は先ほどの「エナセーブ 100」に代表される環境負荷低減に貢献するタイヤ開発の取組です。当社では「タイヤが地球環境に貢献できること」を考え、原材料、低燃費、省資源という3つの方向性で石油外天然資源タイヤ、低燃費タイヤ、ランフラットタイヤの商品開発に取り組んでおりますが、このような高性能タイヤの開発に不可欠なのが材料開発技術です。当社では従来の「4D NANODESIGN」を更に進化させた「ADVANCED4D NANO DESIGN」をスーパーコンピュータ「京」をはじめとする国内最先端実験施設の連携活用により完成させ、この技術により開発した最新のコンセプトタイヤ「耐摩耗マックストレッドゴム搭載タイヤ」を本年の東京モーターショーで発表させていただきました。今回完成した「ADVANCED4D NANO DESIGN」により、今後、相反性能である低燃費性能、グリップ性能、耐摩耗性能を大幅に向上したタイヤ開発が可能となるため大きな期待を寄せております。そして、省資源の方向性ではスペアタイヤを不要とする「スペアレス」の考え方のもと、新たなイノベーション技術として空気を使わないエアレスタイヤテクノロジー「ジャイロブレイド」と、釘踏みなどによる穴をシーラント剤で埋めることでパンクによるアクシデントを低減するシーラントタイヤテクノロジー「コアシール」の開発を推進しています。さらにランフラットタイヤでは次世代新工法「NEO―T01」により、ノーマルクイヤより軽量で、且つ高性能な次世代ランフラットタイヤの開発を開始しております。今、ご説明しましたいずれのタイヤも近い将来の発売に向け、開発を進めてまいりますのでぜひご期待下さい。

 二つ目は天然資源の活用促進です。当社では従来のパラゴムノキ由来の天然ゴムに代わる、新たな天然ゴム資源としてロシアタンポポに着目し、米ベンチャー企業のカルテヴァット社とその実用化検討のための共同研究を本年8月より開始致しました。今後も研究を進め、天然資源の活用促進、原産地域の多様化により、多くのお客様に環境負荷の少ない高性能タイヤを安定的に供給することを目指してまいります。

 三つ目は天然資源の高機能化です。石油外天然資源タイヤ「エナセーブ 100」の開発で完成したバイオマス技術を駆使し、環境に優しい、「今までにない新しい機能を持つ材料開発」である、高機能バイオマス材料技術の開発を推進しています。そして、その実用化に向けた取組みの成果として、ゴム分子と結合する「しなやか成分」を植物から生み出すことに成功、初期性能を維持できるゴムを開発し、東京モーターショーで発表させて頂きました。この「しなやか成分」はシリカの周囲に留まることで柔らかさを保つため、長期間使用してもグリップ力、耐摩耗性、乗り心地を維持することができます。2016年にはこのタイヤを量産化し、発売できるよう研究開発を進めております。

 次に「VISION2020」の実現を目指した3つの成長エンジンの内のひとつ、「新市場への挑戦」に基づく、グローパル展開の推進についてですが、2013年より建設を進めておりましたトルコ工場が6月末より稼働しました。開所式にはエルドアン大統領もご出席されるなど、トルコ共和国としても当社に大きな期待を寄せて頂いているため、その期待に応えるべくトルコおよび周辺市場への供給体制を強化してまいります。さらにブラジル、南アフリカなどの新工場も順調に生産能力を高めており、これらの新拠点を軌道に乗せる事でグローパル生産体制の更なる拡充を図ってまいります。

 次にスポーツ事業です。国内市場ではゴルフボール「スリクソン Z―STAR」やゴルフクラブ「ゼクシオエイト」が年間を通じて好調に推移し、国内ではゴルフボール、ゴルフクラブの金額シェアNo・1を継続しました。海外でも9月にアベレージゴルファー向けゴルフクラブ「スリクソン Z355シリーズ」を発売、12月からクラブがヘッドの軌道を変え、飛距離をアップする「ゼクシオナイン」を世界各国で発売し、お陰様で大変ご好評を頂き、好調なスタートを切っています。また昨年から参入したウェルネス事業では、新しく24時間対応のスポーツジム「GYM STYLE 24」を開業するなど、新分野にも積極的にチャレンジしました。尚、先日、ダンロップスポーツ社が米子会社の減損処理に伴う特別損失の計上により、業績予想、の下方修正を行いましたが、これにより、当社の連結業績予想を変更する予定は現時点ではございません。

 産業品事業については、ファインラバー、クリーンラバーおよび制振という成長3商材の販売を、それぞれ伸ばすことができました。ファインラバーはプリンター・コピー機用精密ゴム部品のシェアアップに努め、海外市場中心に拡販できました。クリーンラバーではスイスの医療用ゴム部品会社「ロンストロフ社」を買収し、ヘルスケアビジネスを強化しました。今後の欧州市場での成長が期待されます。制振事業では戸建て住宅用制震ダンパー「MIRAIE」が9月に累計販売1万棟を達成しました。

 次に、2016年度の方針です。まず、国内経済は企業の堅調な収益向上や政府による各種政策の効果を背景に、緩やかな回復基調の継続が期待されます。また、2017年4月の消費税率の再引き上げによる駆け込み需要、そして大きな注目を集めましたラグビーのワールドカップが2019年に開催されることに加え、2020年の東京オリンピックなど明るい材料もあり、マーケットの動向をしっかりと見据え、先手を打っていくことが必要と考えております。為替については円安傾向が継続し、原材料も低位安定で推移すると想定されることから輸出環境は引き続き良好だと考えられるため、海外市場での戦略的な販売を積極的に進めて行きたいと考えております。海外では中国を起点とする新興国経済の成長鈍化は継続すると見ておりますが、北米が堅調であることから、世界全体としては緩やかながら回復基調をたどるものと考えております。しかしながら、南アフリカ、ブラジル、ロシア、インドといった当社の成長を支えるマーケットの成長が先行き不透明であることに加え、中国の景気次第では世界経済の下振れリスクもあり予断を許さない状況です。こうした状況を踏まえますと、やはり、欧米での取り組みが、当社ビジネスの大きなカギを握ると言っても過言ではないため、グループ一丸となって、欧米でのビジネス発展に向けた基盤を早急に整備してまいります。

 またスポーツ事業においても、国内では少子高齢化の影響で市場の伸びは期待できず、海外でも競争激化により厳しい状況の継続が予想されます。産業品事業においては、東京オリンピック需要の取り込みや、海外での増販で伸ばす計画ですが、圏内市場は横ばいの見込みであり、海外市場の成長も不透明です。

 2016年は、このように事業を取り巻く環境が一層激しさを増す中で、「VISION2020」に向けた新たな中期計画の初年度として、まさに正念場の年。そして、目標達成に向けて足場をしっかりと固めなければならない、極めて重要な年となります。大きな環境変化に直面し、かつ事業発展の過渡期にある当社が「真のグローパルプレイヤー」になるために、肝に銘じておくべきことは基本理念である「住友ゴムWAY」の4つの価値観だと考えています。そこで、2016年の社長方針はこの「住友ゴムWAY」の理念を改めてグループ社員一人ひとりが、業務を行う上で徹底的に意識して欲しい、との考えのもとで次の三点を定めました。

1「信用と確実」を業務の基本とし、未来の発展につなげよう
2「縦と横のつながり」を強固にし、一人ひとりが「高い目標」に挑戦しよう
3自らの成長と「人を育てる」意識を持とう

 第一の方針はグローバル化といった大きな時代の変化に直面する中で、企業として持続的に成長していくためには、健全な事業活動を通じた社会、お客様、そして社員からの信頼を獲得し続けることが基本中の基本だと考えます。今年は、不正処理、製造品質や安全性に関する様々な社会問題が世間を騒がせましたが、こうした問題は、長年積み上げてきた信頼を一瞬で失うものであります。当社はグローバルに事業拡大をしていますが、まずは社会からの信頼が基本であり、そのために一番大切なことは各部、各自が業務を行う上で、それぞれに関係する法令やルールを順守することです。同時に、技術力を強みとする「品質の住友ゴ、ム」としての地位を確固たるものとするために品質レベルを維持・向上させていくことが、さらなる信頼につながります。そのために、数値データによる客観的な分析・判断だけでなく、実際の現場を知り、現物を見る、すなわち「現地現物」の基本を徹底し、当社への信頼を確実なものにするために、製品品質、業務品質、安全といった、会社全体の品質維持・向上を常に意識しながら業務に取り組み、未来の発展につなげてまいります。
第二の方針は当社はこれまで強みである技術力を活かし、市場を牽引する先進的な商品を提供してまいりましたが、それだけでは通用しない時代になりつつあると感じています。会社全体のさらなる成長のためには、これまで以上に「縦と横のつながり」を強固にし、全部門のベクトルを市場やお客様に向けることが必要だと考えております。当社が評価されるべきは社内ではなくマーケットです。このことを肝に銘じて業務に取り組んでし、くためには、日々の仕事に埋没するのではなく、常に世の中や各市場の動きに対する感度を高め、しっかりとしたベンチマークを通じて、グループ一丸となってより高い目標を掲げ、挑戦し、お客様に感動して頂けるような商品、サービスの提供に取り組むことで我々の掲げる高い目標を確実に達成してまいります。

 第三の方針は『自らの成長と「人を育てる」意識を持とう』です。
組織力の強化・向上には、一人ひとりの成長と自信を持つことが不可欠です。成長と自信を持つためには、まずは自らの業務をこなせる知識と経験、そして質を高めていくための自己啓発が求められます。特に知識の向上と自己啓発については、自らが意識し取り組む意欲が必要です。自らが積極的に動き、社外との接点を増やすことで自らのレベルを肌で、感じ、更に自身を向上させ、成長させるという強し、意志を持ち自己啓発に励むことが求められます。そして、同時に後継者の育成を意識した双方向のコミュニケーションも必要です。新しいアイデアや斬新な意見を出し易い職場環境の整備により、将来の住友ゴムグループを担う人材の育成に努めてまいります。

 最後になりましたが、当社では「Go for NEXT」をスローガンに、社会からの期待に応える真に価値ある企業グループを目指して邁進し、「VISION 2020」の目標達成に向け、今後もグループ一丸で、取り組んでまいります。

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