住友ゴム 新中計を発表 欧米に開発拠点、3極体制導入も 

2016年02月15日

ゴムタイムス社

 住友ゴム工業の池田育嗣社長は2月12日、15年度決算説明会の中で、長期ビジョン「VISION2020」の実現に向け、今年度からスタートする中期経営計画の概要を説明した。

 12年9月に発表した長期ビジョンでは、具体的な数値目標として20年に売上高1兆2000億円、営業利益1500億円を掲げ、3つの成長エンジンである「新市場への挑戦」「飽くなき技術革新」「新分野の創出」のアクションプランを推進している。

 新中計では、新市場への挑戦に、新たに最重要テーマとして「欧米事業の拡大」を加え、欧州と米国で17年にテクニカルセンターを本格稼働することや、4月1日から「アジア・大洋州」「欧州・アフリカ」「米州」の3本部体制に移行する方針を打ち出した。

 同社はグッドイヤーとのアライアンス契約・合弁事業を解消したことで、欧米でも開発や製造が自由に行えるようになった。

 特に発展していくことが期待される北米地域の生産面については、乗用車用、トラック・バス用、モーターサイクル用タイヤで、現在、年間約460万本の生産能力を持っているニューヨーク州のバッファロー工場の生産能力を、北米市場拡大に最大限活用する。

 具体的には、現在、タイ工場で生産しているファルケンブランドの市販用タイヤの一部をバッファロー工場に移管し、地産地消化を進める。また、ダンロップブランドの日系自動車メーカー向け新車用タイヤの現地生産対応も検討する。

 その上で、将来的には高性能SUV用タイヤや低燃費タイヤなどの高付加価値タイヤの拡販に取り組み、その進捗に合わせて北米地域の供給能力の強化を検討する。

 販売面では、市販用タイヤではファルケンブランドが得意としているハイパフォーマンスタイヤに加え、北米で大きなボリュームを持つライトトラック用やトラック・バス用タイヤなど、各カテゴリーで競争力のあるダントツ商品を順次投入し、商品ラインアップの強化を図る。

 プロモーション展開では、昨年から開始したメジャーリーグやエアレースなどを活用したプロモーション活動を継続・強化することで、ファルケンブランドのバリューアップを図り、シェア向上につなげる。

 新車用タイヤでは、アライアンス解消により制約のなくなったダンロップブランドによる日系自動車メーカーへの新車装着を始め、すでに納入が始まっている非日系メーカーへのファルケンブランドでの新車装着もさらに拡大させる。

 二輪車用タイヤでも、ダンロップブランドでの新車用・市販用タイヤ事業を独自に展開することが可能になったため、従来から多くの新車採用がある、ハーレーダビッドソンとの関係をさらに強化して納入シェアを拡大することに加え、米国で人気の高いモトクロスなどモータースポーツ活動をさらに強化し、ナンバーワンブランドとしての地位を確固たるものにしていく。

 さらに市場ニーズをいち早く取り入れ、高性能・高品質なタイヤを迅速に提供するためには、バッファロー工場を活用した開発・生産体制の一体化が必要なことから、早急に現地開発・体制の整備・拡充を進め、17年にテクニカルセンターの本格稼働を検討する。

 これらの取り組みにより、北米市場で20年に60%増の販売数量を目指す。

 欧州については、生産面では供給拠点として昨年6月に稼働したトルコ工場が着実に生産能力の増強を続けており、昨年末の日産4000本から、19年には同3万本規模まで拡大する予定だ。

 トルコ工場は高精度と高性能を追求し、生産工程の全自動化と設備の小型化を実現した独自の工法である「太陽」を導入しており、欧州市場への高性能タイヤの供給力は従来に比べ格段に強化されたことから、同工場を活用して欧州市場を強化していく。

 販売面では、欧州の市販用タイヤについては、自動車雑誌で高い評価を獲得することが販売に大きな影響を与える。ファルケンブランドでは、すでに「シンセラ」などで高評価を獲得しているが、今後、トルコ工場での高性能タイヤの生産能力をフルに生かし、ダントツ商品の市場投入を進め、雑誌での高評価獲得を継続することで、シェア拡大を図っていく。

 また、多様な顧客ニーズにマッチした商品の投入、さらに従来のドイツを中心とした販売体制から、欧州全体で国別の販売戦略を取ることにより、販路拡大を進め拡販に努める。

 プロモーション展開では、ドイツ・ブンデスリーガ1部リーグのFCインゴルシュタットとのスポンサー契約、ニュルブルクリンク24時間レースなどのプロモーション活動などにより、ファルケンブランドのバリューアップを図る。

 北米地域同様、欧州でも現地開発体制の整備・拡充を進め、17年にテクニカルセンターの本格稼働を検討し、トルコ工場との連携で、市場ニーズを最大限に取り入れた商品をいち早く投入する体制づくりを進めていく。

 また、現地自動車メーカーへの提案力強化や性能評価体制の拡充により、新車用タイヤの拡販にも注力。すでにファルケンブランドではパサートやポロなど、多くの車両で新車採用が始まっているが、今後もトルコ工場からの供給体制を生かし、積極的に欧州自動車メーカーへの納入を拡大していく。

 これらの取り組みにより、欧州市場で20年に40%増の販売数量を目指す。

 池田社長は「北米・欧米での取り組みは長期ビジョンの目標達成にとって最も重要なポイントとなる」と指摘し、グループ一丸となってビジネス拡大に全力で取り組む考えを示した。

 新興国、その他戦略の強化については、新市場への挑戦として、同社は中近東・ロシア・インド・アフリカ・中南米の5つの新興エリアでのシェア拡大を目指し、生産・販売拠点の積極展開を進めている。これまでにブラジル・南アフリカ・トルコで新工場を稼働、ロシア・インド・オーストラリアでは販売会社を設立し、順調に生産能力・販売網を拡大してきた。

 今後はこれらの新拠点をフルに活用し、各地域のニーズに即した商品拡充や販売強化により、販売数量増を図る。

 また、中国市場では常熟・湖南の2工場を増強し、引き続き成長を図る。販売施策では、タイヤだけでなく総合的なメンテナンスサービスを提供する、新チャネル「D―ガード」を17年までに200まで拡大。さらに、ダンロップ・ファルケンの両ブランドで新商品を積極的に投入するなど、さらなる強化により中国市場の拡大を目指す。

 農業機械用タイヤでは、アセアン地域での急速な需要拡大に対応し、14年4月からタイで農業機械用タイヤ工場を稼働。今後、新車装着拡大、大型農機用タイヤを始めとした商品ラインアップの強化などにより、タイとタイ周辺国への拡販を積極的に推進する。

 一方、新分野の創出として、産業品事業では戸建て住宅用制震ユニット「ミライエ」が昨年9月に累計販売1万棟を達成しており、今後の営業活動によりさらなる拡販を図る。

 ヘルスケアビジネスでは、スイスの医療用ゴム部品会社であるロンスロトフ社の買収により、欧州への進出を開始。今後は海外販路のさらなる拡大により、現在5位の総合医療用ゴム製品分野で世界3位を目指していく。

 さらに、環境変化のスピードが速く、市場での競争がますます激化していく中で、欧米での事業拡大、新興国、その他戦略の強化を実行するためには、各市場のニーズに合った開発・生産・供給・販売活動を、これまで以上にスピーディーに実行する必要がある。

 このため、4月1日から経営体制を、従来の日本本社集中体制から「アジア・大洋州」「欧州・アフリカ」「米州」の3極に責任者を配置する、グローバル経営体制に移行することを決定した。

 これにより、世界規模での適切な情報コントロールと、各地域の事業全体をタイムリーに把握し、意志・決定のスピードを上げることで、これまで以上にグローバルでの開発力・販売力の強化を図っていく。