創刊70周年特別企画 各社の事業戦略 住友ゴム

2016年10月24日

ゴムタイムス社

真のグローバルプレイヤーに
「VISION 2020」実現目指す 
3つの成長エンジン原動力に

池田社長

池田社長

 住友ゴム工業(池田育嗣社長)は、2020年を目標年度に目指すべき企業の姿を「高収益・高成長の真のグローバルプレイヤーになる」「ステークホルダーにとっての価値向上と、全社員の幸せを追求する」企業として提示した長期ビジョン「VISION 2020」を策定している。その目標を達成するため「新市場への挑戦」「飽くなき技術革新」「新分野の創出」の3つの成長エンジンを原動力に全社一丸となって取り組んでいく。

■欧米事業を拡大

 同社は長期ビジョンの実現に向け、グループを挙げて事業の成長と収益力の向上を目指して様々な対策に取り組んでいる。

 タイヤ事業については昨年、グッドイヤー社とのアライアンス契約を解消。

 これまで同社が欧州・北米で事業展開するには、様々な制約があったが今後は生産・研究・開発などの拠点を独自に保有することが可能になるため、従来よりも自由度が増した新体制により、大きな飛躍を図ることが期待できる。

 また商品面でも、今後はファルケンブランドを効果的に活用することで、多様化するユーザーのニーズにきめ細かく対応し、グローバル展開を一層加速させていく。

 プロモーション展開については、ファルケンの持つ躍動感や、若々しくエネルギッシュなイメージを訴求するため、日本では「レッドブルエアレース・千葉」における大会協賛およびパイロットの室屋義秀氏とのスポンサー契約を締結した。

 欧州ではドイツのプロサッカーリーグ・ブンデスリーガ1部の「FCインゴルシュタット04」、米国ではメジャーリーグベースボールのスポンサー契約などを行い、ファルケンブランドのグローバルプロモーション活動を本格的にスタートさせている。

室屋義秀選手の機体

室屋義秀選手の機体

 タイヤの新商品としては、乗用車用では独自技術である特殊吸音スポンジ「サイレントコア」を搭載した快適で長持ちする低燃費タイヤ「ル・マン4」の転がり抵抗性能を「A」から「AA」に高め、低燃費性能をさらに向上させた。

 また、トラック・バス用タイヤでは高純度天然ゴム「UPNR」を同カテゴリで初めて採用し、低燃費性能を高めた低燃費オールシーズンタイヤ、ダンロップ「エナセーブ SP688 Ace」を3月から順次発売している。

 さらに8月からダンロップ史上No.1の「氷上性能」と「長持ち」(「効きの長持ち」+「ライフの長持ち」)を実現した乗用車用スタッドレスタイヤ「ウィンターマックス02」を発売している。

 


 

■環境への取り組み

 同社では持続可能な社会の実現への貢献を目指し、地球温暖化問題や化石燃料枯渇問題などの環境問題に対応するため、様々な取組みを推進している。

 その1つが「エナセーブ100」に代表される環境負荷低減に貢献するタイヤの開発だ。

 同社では「タイヤが地球環境に貢献できること」を考え、原材料・低燃費・省資源という3つの方向性で、石油外天然資源タイヤ・低燃費タイヤ・ランフラットタイヤの商品開発に取り組んでいる。

 このような高性能タイヤの開発に不可欠なのが、材料開発技術である。

 同社では従来の「4Dナノ・デザイン」をさらに進化させた「アドバンスド4Dナノ・デザイン」を、スーパーコンピュータ「京」をはじめとする国内最先端実験施設と連携して完成させた。

 これにより、今後、相反性能である低燃費性能・グリップ性能・耐摩耗性能を大幅に向上したタイヤ開発が可能となる。

 省資源の方向性では、スペアタイヤを不要とする「スペアレス」の考え方のもと、新たなイノベーション技術として、空気を使わないエアレスタイヤテクノロジー「ジャイロブレイド」と、釘踏みなどによる穴をシーラント剤で埋めることで、パンクによるアクシデントを低減するシーラントタイヤテクノロジー「コアシール」の開発を進めている。

 さらに、ランフラットタイヤでは次世代新工法「NEO―T01」により、高い快適性能と環境性能、安全性を実現した次世代ランフラットタイヤの販売を開始した。

 環境問題に関する2つ目の取り組みは、天然資源の活用促進である。同社では従来のパラゴムノキ由来の天然ゴムに代わる、新たな天然ゴム資源としてロシアタンポポに着目。米ベンチャー企業のカルテヴァット社との共同研究を昨年8月から開始した。

 今後研究を進め、天然資源の活用促進や原産地域の多様化により、環境負荷の少ない高性能タイヤをより多くのユーザーに安定的に供給することを目指す。

 3つ目は天然資源の高機能化。エナセーブ100の開発で培ったバイオマス技術を駆使し、環境に優しく、今までにない新しい機能を持つ材料開発として、高機能バイオマス材料技術の開発を推進する。

 その実用化に向けた取り組みとして、ゴム分子と結合する軟化剤「しなやか成分」を植物から生み出すことに成功し、初期性能の低下を抑制することのできるゴムを開発した。

 この「しなやか成分」はシリカの周囲に留まることで柔らかさを保つため、長期間使用してもグリップ力・耐摩耗性・乗り心地を維持することができる。今年8月に発売した「ウィンターマックス02」から採用されている。

■3極体制で開発力強化

 住友ゴムでは昨年のグッドイヤー社とのアライアンス解消により、「VISION 2020」の成長エンジンに本年から新たに「欧米事業の拡大」を加え取組を加速させている。

 4月から経営体制をこれまでの日本本社集中体制から「アジア・大洋州本部」「欧州・アフリカ本部」「米州本部」の3極体制に移行し、日本はグローバル本社として、3極のフォローとサポートを実施していく体制に移行した。

 米州地域での取組みでは、北米、南米での生産増強を今後進めていく方針。米国工場では需要の多いSUV用タイヤを中心に、乗用車・ライトトラック用タイヤの生産能力を現在の日産5000本から1万本に拡大し、北米での高付加価値タイヤの販売拡大を図る。

 ブラジル工場では需要増加が見込めるトラック・バス用タイヤの現地生産化を推進。

 開発体制に関しては、ニューヨーク州・バッファローの米国工場内の「米国テクニカルセンター」を2017年1月より本格稼働を開始する予定。

 また、アラバマ州ハンツビルにある「米国タイヤテストコース」も、2017年1月からドライ・ウエットブレーキテストを開始する。

 欧州では、従来、事業所が分散していた開発・販売・技術サービスを行うグループ会社3社を一か所に集約し、開発・販売を、より機能的に進める体制に変更する事を決定した。

 本年4月にドイツ・ハナウ市に土地を既に取得しており、集約、移転に向けての準備を開始している。

 この敷地内に設置を進めている「欧州テクニカルセンター」については2017年8月に本格稼働の予定。

 2018年1月にはグループ会社3社を集約し、開発・販売を、より機能的に行う体制を完成させる予定。

 


 

材料開発技術を進化 材料開発技術を進化

新材料開発技術「ADVANCEDアドバンスド 4Dフォーディー NANOナノ DESIGNデザイン」共同研究結果を合同発表

 タイヤ開発では現在、低燃費性能・グリップ性能・耐摩耗性能という、相反する3つの性能を向上させることが求められている。

 住友ゴム工業はこれまで材料開発技術「4Dナノ・デザイン」を使い、低燃費性能を大幅に進化させた「エナセーブNEXT」などの開発を行ってきた。

 しかし、今後ハイブリッド車や電気自動車などのエコカーが普及していくと、車体の高重量とモーターの低い低速トルクに対応する耐摩耗性能が、従来以上に重要になってくることなどから、4Dナノデザインを進化させる必要があった。

 そこで、同社ではその進化版である新材料開発技術「アドバンスド4Dナノ・デザイン」の開発に取り組み、昨年完成させた。

 同技術の特長は、従来はシリカ三次元構造や架橋構造など、タイヤ構造の各領域を別々に解析していたのに対し、構造と動きをトータルに把握すすることで、よりリアルな現象のシミュレーションが可能になったこと。

 これにより、様々なスケールで生じる「ストレス」が、タイヤの3大性能に関係していることが分かった。

 同社ではこれを基に、タイヤゴム内部の構造と動きに潜む様々なストレスをコントロールして小さくする「ストレスコントロールテクノロジー」を確立。超ロングライフを目指したコンセプトタイヤ「耐摩耗マックストレッドゴム搭載タイヤ」を2015年の東京モーターショーで参考出品した。

■新分野への挑戦

住宅用制震ユニット「MIRAIE」

MIRAIE

 産業品事業については、OA機器用精密ゴム部品・医療用ゴム部品・制振という成長3商材の拡販を行っている。

 OA機器用精密ゴム部品ではプリンター・コピー機用精密ゴム部品のシェアアップに努め、海外市場中心に拡販に取り組んでいる。医療用ゴム部品ではスイスの医療用ゴム部品会社「ロンストロフ社」を買収し、ヘルスケアビジネスを強化した。今後の欧州市場での成長が期待できる。

 制振事業では、戸建て住宅用制震ユニット「MIRAIE(ミライエ)」に注力している。「MIRAIE」は住友ゴム独自の高減衰ゴムテクノロジーで開発した高減衰ゴムにより、振動エネルギーを瞬時に熱エネルギーに変換することで地震の揺れを最大で70%軽減することが実大振動台実験で確認されている。また、その後も繰り返し発生する余震の揺れも吸収し続けることで家の損傷を軽減できる。さらに、高減衰ゴムの経年耐久性は促進劣化試験で90年であることが確認されており、定期的なメンテナンスが不要となるため、長期にわたり地震から大切な住まいを守り続けることが可能である。

 


 

トルコ工場が稼働

トルコ工場建屋

トルコ工場建屋

 住友ゴム工業は「真のグローバルプレイヤー」に向け、グローバル展開を進めている。

 その一環として建設を進めてきたトルコ工場が昨年6月に稼働し、10月にはエルドアン大統領も出席して開所式を開催した。

 あいさつを行った池田育嗣社長は、同工場を19年末までに日産3万本、従業員数を2000人の規模に成長させる予定であることを紹介した。

 また、エルドアン大統領はあいさつの中で、「トルコは、日本の友人に対して協力を惜しみません。共に成長、発展していきたい」と述べた。

 同社では、トルコ以外でも、ブラジルや南アフリカ・アメリカなどの新工場で生産能力の増強を図っている。

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