創刊70周年特別企画 各社の事業戦略 横浜ゴム

2016年10月24日

ゴムタイムス社

独自の存在感持つグローバル企業に
中計「GD100」推進 創業100周年の17年目標に

野地社長

野地社長

 横浜ゴム(野地彦旬社長)は、創業100周年に当たる2017年度に「企業価値・市場地位において、独自の存在感を持つグローバルカンパニーを目指す」ことをビジョンとする、中期経営計画「グランドデザイン(GD)100」に取り組んでいる。GD100は、3年ごとに4つのフェーズに分けている。15年からスタートした最終段階のフェーズ4では、17年度に売上高7700億円、営業利益800億円、営業利益率10・4%を達成することが目標だ。

■中計の最終段階「フェーズⅣ」

 フェーズⅣでは「成長力の結集~YOKOHAMAの可能性を結集して、次の100年を切り拓く~」をテーマに、これまで各フェーズで取り組んできた、あらゆる成長力を結集して事業活動を展開している。

 フェーズⅣの初年度となった15年は、タイヤ事業戦略では「グローバルOE市場への注力として、同社が持つ最高レベルの技術を投入し、世界の自動車メーカーからの技術承認取得に努め、国内外の話題の車両へ納入した。

 また「大需要・得意市場でのプレゼンス向上」として、北米・欧州・中国といった大需要地域に加え、日本・ロシアで販売を強化。15年7月からイングランド・プレミアリーグの強豪「チェルシーFC」とのパートナー契約を結び、世界的な認知度向上に努めた。

 さらに「生産財タイヤ事業の拡大に向けた戦略」として、米国ミシシッピ州のTBタイヤ工場を稼動させ、さらなる地産地消を促進。3月にはTB事業とOR事業を統合した「タイヤ生産財事業本部」を設立し、経営意思決定の迅速化、事業効率の向上を図った。

 MB事業戦略については「自動車部品ビジネスのグローバル展開」として新製品投入にも力を入れ、欧州で普及が進むカーエアコン用新冷媒に対応したホースを開発。

 「海洋商品でNo1カテゴリーを拡大」では、マリンホースや防舷材の新工場をインドネシア・バタム島に建設。設備の配置・試運転までほぼ完了し、製品の試作評価を開始した。今年度の本格稼動に向けた準備を進めている。

チェルシーFCのホームスタジアム/スタンフォードブリッジでの記念撮影

チェルシーFCのホームスタジアム/スタンフォードブリッジでの記念撮影

 「グローバルでの建機・鉱山ビジネス強化」として、長期的に拡大が見込まれる世界の資源開発に対応し、補修交換用高圧ホース、カナダのオイルサンド採掘など極寒冷地仕様のコンベヤベルト販売を本格化させた。

 また「独自技術を応用した新規事業の拡大」として、高圧水素ガス用ホースを本格販売し、水素社会のインフラ整備の一翼を担い、スマートフォン需要に対応した新素材の開発など、新分野にも積極的に展開した。

 一方、技術戦略では、東京工業大学との共同研究によるセルロースから直接ブタジエンを合成する触媒技術、理化学研究所・日本ゼオンとの共同研究によるバイオマスからイソプレンを合成する新技術などを開発。今後、20年代前半を目標に、実用化を目指して研究開発を推進する。

 また、走行時のタイヤ周辺の空気の流れをコントロールするエアロダイナミクス技術を進化させるとともに、同技術の実用化も含め、車の燃費性能を高めると同時に車体の安定性を向上させるタイヤ開発を進めている。

 


 

■16年度の取り組み

横浜ゴムの空気式防舷材

空気式防舷材

 昨年度の取り組みを受け、同社は今年度、タイヤ事業では「グローバルOE市場への注力」を図り、17年のOE海外納入比率55%を目指し、欧州メーカーなどへの新車装着を加速させている。

 また「大需要・得意市場でのプレゼンスを向上」させるため、海外生産拠点の増強を継続して実施し、地産地消を推進。

 「生産財タイヤ事業の拡大に向けた戦略」として、ミシシッピ州のTB工場の本格的な量産開始により、好調な北米市場での展開を拡大している。

 MB事業に関しては、インドネシア・バタム島新工場の本格稼動、長野工場の統合による効率化などにより、さらなる競争力をつけてMB事業売上比率25%を目指している。

 一方、技術戦略では、旭川で新たな冬用タイヤのテストコース「TTCH」を稼動させており、さらに高性能な冬用タイヤを生み出すため、研究開発に力を注いでいる。

 また、モータースポーツでは「全日本スーパーフォーミュラ選手権」のタイヤサプライヤーとして、ADVANをワンメイク供給。

 国内で参加できる最もハイスピードなカテゴリーで「走り」の性能はもちろん、省燃費や安全性能・運動性能との両立など、市販タイヤにも活かせる様々な技術を、一層向上させることに活かしている。

 こうした活動により、同社では創立100周年を迎える17年以降も、次の100年にユーザーに必要とされるタイヤ・ゴムメーカーであり続けるため、これまでにも増してガバナンスとコンプライアンスの強化に取り組み、企業価値・市場地位で、独自の存在感を持つグローバルカンパニーを目指していく。

 


 

米でT・B用工場建設 地産地消体制をさらに強化

 横浜ゴムは昨年10月、米国ミシシッピ州ウエストポイント市に建設した同社単独では北米初となるトラック・バス(T・B)用タイヤ工場の開所式を現地で開催した。

 年々増加する米国での需要に対応するとともに、地産地消体制をさらに強化することが目的。年間生産能力は100万本。需要動向を睨みながら、工場の拡張を順次進めていく方針だ。

 開所式には同州のフィル・ブライアント知事と州政府関係者、米国タイヤ生産子会社「ヨコハマタイヤ・マニュファクチャリング・ミシシッピ(YTMM)」の取引先、野地彦旬社長をはじめ横浜ゴム関係者など300人が出席した。

 あいさつに立った野地社長は「タイヤ産業は堅実な成長を続けており、よりスピーディーにビジネスを展開しなければならない。ミシシッピの地に最新の製造拠点を設立できたことは、非常に大きな意味を持つ」と述べた。

 開所式の前日には記者会見が行われ、野地社長のほか、山本YTMM社長ら4人が出席。野地社長は米国に工場を建設した理由について「北米市場には、米国のT・B用タイヤ専門の合弁会社『GTYタイヤカンパニー』での生産と、日本やタイ、一部中国からの輸入によって対応してきたが、需要が追いつかない状況だった。特にここ3~4年はタイヤ性能が評価され、需要が増加傾向にある」と説明した。

 建設候補地は、3000の郡から検討を始め、3つに絞り込んだ後、最終的に決定した。山本YTMM社長は選定理由として「オペレーションコストの優位性、質の高い労働力が確保しやすいこと、地域のコミュニティーの歓迎」の3つを挙げた。

 新工場の敷地面積は500エーカーを超えており「大きさは東京ドーム70個分で、タイのテストコースよりも大きく、新城工場だと10個分となる」(野地社長)。

 現在の従業員数は246人だが、将来的には500人まで増員する。 今後の拡張計画については「検討中ではあるが、まだ公表できる段階ではない」(同)としながらも、大手OEメーカーとの契約が決まると年産200万本は必要になり「現在の生産能力では対応できないため、拡張が必要になってくる」(同)と説明した。

 販売戦略については、野地社長は「ディーラー販売とOEの増加の両輪で販売を増やしていく。米国では新車購入時にタイヤを自由に選べることもあり、OEに注力していく」との方針を示した。

 また、販売網が確立していない米国東部地区については、専属チームを作り、新規販路の拡大に注力。さらに、ノースカロライナ州にタイヤ研究開発センターを設立している。

 


 

海洋商品の新工場 インドネシアに建設

原油荷役に使われるシーフレックス

原油荷役に使われるシーフレックス

 横浜ゴムは、インドネシア・バタム島に海洋商品(空気式防舷材、マリンホース)の新工場を建設した。

 投資額は約30億円。材料混合から成型、加硫までを行う。これまで海洋商品の生産は、日本で行っていたが、新工場の完成で2工場体制となり、生産規模も約1・5倍に拡大した。

 新工場はバタム島東部のカビル工業団地に建設。製造会社として資本金10億円で「横浜工業品製造インドネシア」を設立した。

 約5万㎡の土地使用権を取得して建設し、将来的には隣接する土地区画への拡張も計画している。

 バタム島はアジア最大のハブ港であるシンガポールから20kmと近く、国際物流面での利便性にも優れている。

 海洋商品は、主に原油などの海上輸送に使用され、世界的な石油需要の増加に伴い、順調に需要を伸ばしている商品だ。

 同社は海洋商品の世界トップメーカーの1社で、空気式防舷材が世界シェア第1位、マリンホースが第2位を占めている。

 


 

旭川に冬用タイヤテストコース

 横浜ゴムは1月20日、北海道旭川市に、完成した冬用タイヤテストコース「北海道タイヤテストセンター(TTCH)」を完成させ、26日に野地彦旬同社社長、西川将人旭川市長らが出席し、開所式を行った。

 同テストコースは昨年年3月に、上川生産農業協同組合連合会から取得した旭川競馬場跡地に建設されたもので、敷地面積は東京ドームの19倍強に当る90万6462㎡。直線が約1kmにおよぶ圧雪路のほか、氷盤路、登坂路、雪上/氷上旋回路、ハンドリング路を備えている。

 乗用車で時速100km以上のテスト走行ができ、トラックやバスについても、登坂など様々な路面状況で制動・発進・加速テストができる。

 また車で旭川駅から15分、旭川空港から10分とロケーションの利便性も高い。

 毎年、氷点下の気温が安定的に続く12月末から翌年2月末までの厳冬期に冬用タイヤのテストを行い、春から秋にかけては夏用タイヤのテストにも活用する計画。

 これまで同社は、冬用タイヤテストを日本の自社コースのほか、スウェーデンの契約コースなどで行ってきた。

 しかしタイヤ事業がグローバルに拡大する中、評価数の増加、評価手法の高度化が進み、従来の冬用タイヤテストコース「T*MARY」(北海道上川郡鷹栖町)では手狭になっていたことから、TTCHを建設した。

 完成したTTCHの敷地面積は「T*MARY」の約4倍の広さとなっている。

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